近作を訪ねて 「姫宮の住宅」高橋堅建築設計事務所(住宅特集1105)

”もの”と”制御”


畑の中に住宅が散在する平坦な風景の中、その住宅は、切り出された塊のように置かれていた。 今後、周囲の木々に覆われてゆくとしても、周辺の住宅より低く、平屋としては高いそのヴォリュームに、見過ごせない存在感を感じつつ、今年の初雪から逃れるように内部に入る。

トップライトと窓からの光の減衰が、美しい。西側からリビングに入った瞬間は、正面に開口が少ないこと、トップライトが梁の反対側に設けられていることから、視界としてはやや暗めに感じられる。 しかしすぐに目が順応し、光の濃淡による場所の多様さが浮かび上がり、開口を少なくした部分の暗さこそが効果的であることに気づく。 それらの場所がテレビ置き場であったり、ヨガスタジオであると聞き、納得。 開口が正面にくる逆方向を見通すと、今度はトップライトからの光を受けるふたつの梁が重なり、先ほどとは異なる、明るく開放的な印象。 梁の囲む各スパンに対し、偏って入る光が重なり合うことで、リジッドなかたちに見飽きることのない表情を与え、空間の印象は、視点の位置と向きによって実に多様に移り変わる。

驚いたことに、コンクリート製品を組み合わせた、低いテーブルと高めのソファーは、竣工後の建主の考案によるという。 建物との質感や形状の関係が良いだけでなく、上下の視点の移動を促すこれらの家具は、この住宅に対する深い理解と共感から生まれているように感じた。 その他、マガジンラックやCD立てもコンクリート製品が用いられ、それ以外のものは、全て壁面と同じ白。建主の着衣も白だった。 建主がこの住宅に大きな満足を得て、いかに美しく住まれているかがわかる。

ひととおり見学し、座ってお茶をいただきながら見上げると、それまで光と整理されたディテールを追っていたせいか、改めて梁の大きさを実感する。 主張しすぎぬよう、抽象的でコントロールされた室内に、注意深く位置づけられてはいたが、それは大きな屋根を、古民家の牛梁と同様に支えていた。 すこし遅れてやってきた構造体の体感とともに、梁は確かな説得力を持ち始め、その存在自体が所与のもののようにすら感じられるから不思議だ。 実はスパン調整で生活に細かく対応しながらも、造作家具や仕上げなどの見えがかりの多様さを抑えることで、光の中で架構そのものの姿が浮かび上がる。 一見取り付きにくい外観も、消極的な寡黙さではなく、架構をそのまま受け入れるという意識的な判断が、このフラットな風景の中でこそ、可能だったと理解できる。

付加的なデザインが、時に物そのものの持つ力を損なうとしたら、この住宅は、物としての架構と、その制御でできている。 あらゆる建物で無意識に行われていることだが、制御の方法と程度に意識的であればこそ、様々な創作の可能性が広がることを、豊かな空間とともに、この住宅は示している。
掲載:『新建築住宅特集2012.03 コラム:近作を訪ねて』(新建築社)